もくじ
胸腰筋膜
胸腰筋膜(thoracolumbar facia: TLF)は、脊柱を体軸として見た時、その力の収束場であり、四肢との繋がりも強固な場所です。
腹腔内圧との関連性も含め、この重要な構造を理解することは、からだの動きをみるうえでに大いに役立ちます。
背部の筋
まず、胸腰筋膜の構造にはいる前に、背部の筋の分類をざっくりと確認しておきましょう。
浅い層:僧帽筋、広背筋、大・小菱形筋、肩甲挙筋など
上肢の機能に関与し「二次的な背筋」とも称されます。
- 広背筋は上腕骨から胸腰筋膜の一番表層に繋がり、この胸腰筋膜を介して反対側の大臀筋と明確な連結を持ちます。
中間層:上後挙筋・下後挙筋
上後挙筋は頸椎と胸椎、下後挙筋は胸椎と腰椎にまたがっとところから肋骨に付着し、わずかに肋骨を動かします。
深層:固有背筋
固有背筋とは、骨盤から頭蓋まで位置し、脊柱を動かす働きを持ちます。
腹腔内圧と合わせ姿勢制御に大きく関わるのが固有背筋です。
そして、固有背筋は以下の4群に分かれます。
また、神経支配は全て脊髄神経後枝になります。
- 浅層:板状筋:頸部の伸展・同側回旋・側屈
- 中間層:脊柱起立筋:体軸の粗大な伸展運動を担う
- 深層:横突棘筋(半棘筋・多裂筋・回旋筋):体軸の繊細な運動制御を担う
- 短分節筋(棘間筋・横突間筋・肋骨挙筋):筋紡錘などの受容器が多く、運動感覚のフィードバックに関与
後頭部:後頭下筋
頭部の繊細な動きに関わる筋群です。
- 小後頭直筋、大後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋
胸腰筋膜の構造
胸腰筋膜の大きな特徴は、固有背筋を包むように派生していることです。
また、腰部から頸部まで繋がっています。
そして、胸腰筋膜は頸部・胸部・腰部の3部位に区分することができます。
頸部
項靭帯と呼ばれます。
浅葉は僧帽筋、深葉は脊柱起立筋を覆っています。
胸部
脊柱起立筋の後面を覆っています。
棘上靭帯から肋骨角(腸肋筋が付着する肋骨結節外側のカーブが一番強いところ)までの幅を持っています。
腰部
浅層から順に後葉・中葉・前葉の3層からなります。
胸腰筋膜を体軸の力の集積場所として考えるとき、腰部の胸腰筋膜はとても重要な場所です。
次に、この腰部胸腰筋膜の3層区分を、もう少し細かくみてみましょう。
腰部胸腰筋膜の3層構造
これは腰部の横断面の模式図です。
胸腰筋膜3層が青・黄・赤で示してあります。
では、胸腰筋膜の浅い層から順に確認しましょう。
後葉:体幹の深筋膜の浅層の一部
【L4の高さで棘状靭帯と棘突起に付着〜対側の仙骨・上後腸骨棘と腸骨稜に付着】
後葉は他の層より厚く広く、頸部までつながります。
後葉は脊柱起立筋の後面(表層)を覆い広背筋の起始部となります。
つまり、ここは対側の広背筋と大臀筋の明確な連結部です。
それは、対側の上肢と下肢を結合する支帯としての役割をもち、歩く・走るなどの振り子運動のバランスと力の分布を可能にしている場所でもあると言えます。
また、後葉は頸部まで繋がっていますので、腹腔内圧の構築不全や腰椎カーブの不全が、胸腰筋膜の後葉を介し、首の代償動作として現れる場合があることも覚えておきたいことです。
中葉:体幹の深筋膜の深層の一部
中葉は脊柱起立筋の前面(腹側)を覆っています。
内腹斜筋膜と腹横筋膜で形成され、後葉との合流部がこの2つの筋の起始部です。
また、中葉は、腰椎の横突起に付着し、これより後ろに体軸の伸展筋群が、これより前に体軸の屈曲筋群が存在します。
【腰方形筋は中葉より前側にありますが「伸展筋」として記載されている解剖学書が多いです。また、「屈曲筋」と記載されている解剖学書もあります。
腰方形筋は中葉と前葉の間にありますが、胸腰筋膜に直接付着はしていません。
腰方形筋の起始となる腸腰靭帯を介して中葉と前葉につながっています。
この筋は、中葉と前葉の間で屈曲伸展をコーディネートている筋と考えるとその働きが見えてきます。(詳細は別記事に予定)】
前葉:腰方形筋の前面を覆う
腰方形筋の前側、大腰筋の後ろ側に位置します。
前葉はとても薄く、後葉・中葉のように筋の緊張を伝搬させる役割は持ちません。
腹横筋・腰筋の間に位置していることから、骨盤と腹部が連続していく場として考えることができます。
胸腰筋膜のバインディングポイント
バインディングポイントとは、腸骨稜と第12肋骨の間で、胸腰筋膜が本の綴じ目のようにつなぎとめられている所です。
複雑な胸腰筋膜の状態をみる上で、とても役立つポイントで、2箇所あります。
バインディングポイントその①
バインディングポイントその②
バインディングポイントの見つけ方
バインディングポイント②は脊柱起立筋の外側ですので、クライアントに軽く伸展してもらうことで
比較的容易に見つけることができます。
バインディングポイント①は腰方形筋の外側ですが、腰方形筋は背部からの触診は難しいので、以下のように見つけると良いでしょう。
①と②は腰椎2番のあたりで直行します。
脊柱起立筋の外側(バインディングポイント②)を先に見つけ、その少し外側(1センチくらい)で直交させたラインがバインディングポイント①になります。
このバインディングポイントのラインを優しく触診し、吸気で高まった腹腔内圧が指を押すのを感じるようにすると、一部分で圧の弱い場所を見つけることが良くあります。
このような場合、固有背筋の機能、もしくは腹腔内圧の構築不全などが考えられます。
このように、この2つのポイントの触診は、エクササイズや施術におけるアセスメントとして価値高く利用することができるのです。
参考文献:
Carla Stecco著(2018)『筋膜系の機能解剖アトラス』竹井仁訳、医師薬出版株式会社
町田志樹著(2018)『PT・OTビジュアルテキスト専門基礎ー解剖学』坂井達雄監修、羊土社
参考セミナー:
IMMACULATE DISSECTiON「コアコンセプト」(2018)
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