IAP補足:「筋膜」イロハのイ

connective tissue that supports, binds, or separates more specialized tissues and organs of the body. Human anatomy
IAP

ここでは、理解の助けになるよう簡略化して説明しています。
構造はつねに複雑にからみあい連続しています。また、分類には例外があることをご了承ください。

筋膜は連続した結合組織

英語で [Fascia]を訳して「筋膜」「膜」
ラテン語を語源とし「帯」「バンド」の意味があります。

この、「筋膜」[Fascia]の定義は、専門家間でも意見の分かれるところですが、『浅筋膜』と『筋筋膜』の2つは「筋膜」[Fascia]として共通認識されていると言って良いでしょう。

皮下の脂肪層にある結合組織の層『浅筋膜』

「脂肪層のファシア」とも呼ばれます。

皮膚(表皮・真皮)の内側にある脂肪層は、浅筋膜で2層に分けることができます。

  • 1つ目の層
    浅筋膜より皮膚側の脂肪層には密に脂肪があり、皮膚をしたから支え温度調節・血行・リンパの流れに関係しています。
    皮膚~脂肪層~浅筋膜は結合組織で強く連結しているので、皮膚を動かすと、その下の浅筋膜まで連動して動きます。
  • 2つ目の層
    浅筋膜をさかいに脂肪組織は少なくなり水分が増えます。深筋膜と疎性(まばら)に結合するとともにその間での滑走を許しています。

 

文字通り筋肉を形づくっている筋筋膜(myofascia)
深筋膜(筋外膜&腱膜筋膜)・筋周膜・筋内膜』

筋肉と直接連結している筋膜を、他の筋膜と区別するために「筋筋膜」(きんきんまく)と呼び以下のように分類できます。

  • 筋内膜:筋繊維を包んでいます
  • 筋周膜:筋繊維の集まり(筋繊維束)を包んでいま
  • 深筋膜:筋外膜と腱膜筋膜
    • 筋外膜:筋全体を包み腱へと連続しています
    • 腱膜筋膜:筋群の位置を保つように位置し、筋間中隔と言う「しきり」となり、2-3個の筋の区画を形成します。
      腱膜筋膜は、距離を超えて筋力を伝搬することを可能にしています

浅筋膜同様に、筋筋膜はそれぞれ独立しているのではなく、お互いが縦横に連結しています。(一部が動けば、その動きは全部に伝わります。)
さらに、筋筋膜と筋繊維の動きは分離不可能であり、筋が収縮伸長するとき、筋筋膜もダイナミックに動いているといえます

また、深筋膜はひとつづきのユニタードのように、内側で全身を包み込んでいます。
そのユニタードは下腿筋膜のように厚くしっかりしている場合もあれば、顔面では非常にうすく脂肪層と混在したようになっています。

結合組織全体を「筋膜」としてとらえる。

浅筋膜も筋筋膜も固有結合組織です。
結合組織は3次元的かつ蜘蛛の巣のように全身につながっているので、からだの連続性と張力(引っ張り合う力)の伝搬がイメージできます。
結合組織を通じて、からだの一部の動きは全身に伝わるのです。

2016年ファシアに関する最大の国際会議『ファシア研究会議』では、ファシアの定義を解剖学的定義と機能的定義に分けました。

  • 解剖学的定義

A FASCIA『筋肉や内臓をつなぎ、つつむ鞘を形成する肉眼解剖上抽出できる、鞘、シート、そして結合組織である』

肉眼で解剖剖出できる繊維性(網目シート状)の結合組織を「ファシア」としています。
浅筋膜・筋筋膜に加え神経や内臓を覆っている結合組織もファシアとしています

  • 機能的定義

FASCIAL SYSTEM『身体の中で、柔らかく、コラーゲンを含み、緩くて密な繊維性結合組織の三次元的連続体で構成されている。脂肪組織、外膜および神経血管鞘、腱膜、深層および浅層のファシア、神経鞘、関節包、靭帯、膜、髄膜、筋膜連続性、中隔、腱、内臓のファシア、および全ての筋肉内の要素(筋内膜/筋周膜/筋外膜)を含む。そして、すべての臓器、筋肉、骨、神経繊維を取り囲み、折込、相互につなぎ、身体に機能的な構造を与え、すべての身体システムが統合された方法で作用するための土台となるもの』

蜘蛛の巣状に全身に連続する結合組織。この機能体系(システム)を「ファシア」として理解するために、まずは発生から見ていくこととしましょう。

細胞→組織→器官→器官系

細胞

わたし達は多細胞生物。
スタートは一つの卵子です。

その卵子から分化した細胞(約60兆個とも70兆個あるとも言われています)が、からだを作っています。

細胞が複数あるということは、それを繋いだり、他と分けたり、栄養や代謝物または情報をやり取りするシステムが必要ということは想像に難くありません。


まず、細胞は細胞外マトリックスと言われる物質の中にはまり込むように存在しています。

マトリックス(Matrix)とは「母体、基盤、なにかを生み出す物」という意味があります。

この細胞外マトリックスこそが、結合組織ー筋膜の元となります。

細胞→組織

細胞が集まって特定の機能を持ったものが組織です。

人の体の組織はこの4つに分けられます。

  • 上皮組織 (分泌・伝達)
  • 筋組織 (収縮)
  • 神経組織 (伝達)
  • 結合組織:CT (サポート)

 

組織→器官

さらに組織が集まって特定の機能を担うのが「器官」(人間では臓器)(Organ)です。

心臓・肝臓・胃・肺・眼・・・・

器官→器官系

器官や臓器がグループとして機能するのが器官系(Organs)です。

主な器官系は次の10系です。
心血管・呼吸器・神経・皮膚・筋骨格・血液・消化器・内分泌・泌尿器・生殖器

このように複雑なからだを、まとめ形づくっているのが結合組織です。

「結合組織」(connective tissue:CT)の役割

ここまでみてきたように、私たちのからだは、一つの細胞から分化した、組織・器官が絡み重なりあって出来ています。その中で

  • 細胞・組織・器官を結合
  • 筋や臓器間の滑走/支持/保護
  • 酸素/栄養/代謝産物/ホルモンなどの通路を提供

    つまり、構造を内外部から支えているのが結合組織(CT)です。

CTは、からだの至る所に存在します。
さきに述べたように、細胞・組織の接着剤として、隙間を埋めたり、形を保ったり、結合させたり、保護したりする役目を果たしているからです。

CTの構成要素

細胞→器関係の発生をたどってもわかるように
CTは細胞外の要素:細胞外マトリックス(ECM)が主な構成要素です。

水・繊維・粘液(ECM)と線維芽細胞がCTの主要成分であり、広義には、ECMこそが筋膜~結合組織そのものを表しているとも言えます。

細胞外マトリックス(ECM)≒ 結合組織(CT)>筋膜(Fasicia)

もちろんCTそのものも生きていますので、その内に代謝する細胞を含んでいます。

CTに含まれる細胞の種類やECMの配分は、場所により様々に変化します。

  • 細胞(代謝)
    線維芽細胞脂肪細胞、マクロファージとマスト細胞、未文化の間葉細胞、軟骨細胞/軟骨、骨芽細胞/骨細胞
  • 細胞外マトリックス(ECM)
    無色透明で粘着性

    • 繊維(運動):疎水性(不溶性繊維蛋白質など)
      コラーゲン繊維、弾性(エラスチン)繊維
    • 基質※(粘性と柔軟性):親水性(水結合性蛋白質など)
      水分、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン

CTは、細胞や繊維が少なく基質が多いとやわらかく、繊維が多く基質が少ないと、強くしっかりします。

親水性の基質が水分を抱え込むと同時に、疎水性(水をはじく性質)の繊維が水の流れをつくり出しています。

※先にも述べたように、マトリックス(Matrix)とは「母体、基盤、なにかを生み出す物」という意味があり、細胞外マトリックスも「細胞外基質」と訳されています。講習会などで講師が単に「基質」と言っていた場合、細胞外基質のことについて述べていることもあれば、細胞外基質の中のグルコサミノグリカンやプロテオグリカンのことなどについて述べている場合もあります。

固有CTと他のCT

研究者により意見の分かれるところですが、
血液・骨・軟骨、もしくは胎生期に存在する未文化な結合組織などは特別な結合組織として区分し、それ以外は固有結合組織として分類されます。

脂肪組織は固有結合組織・特殊結合組織どちらとも言えます。

  • 固有結合組織
    疎性結合組織、密性結合組織
  • 特殊結合組織
    血液、骨、軟骨、細網組織
  • 胚性結合組織
    間葉組織、膠様組織

脂肪細胞を多く含み貯蔵目的で大きな小葉に組織化されたものが脂肪組織です。対して、固有CT内の脂肪細胞の役割は、おもに周囲の組織保護で、体重が増加してもその量はほぼ変わりません。

固有CTの2分類

固有CTは疎性CT密性CTの2種類(+脂肪組織)にわけられます。

疎性結合組織・密性結合組織・脂肪組織

次に各固有CTの特徴を見てみましょう

疎性CT

疎性(そせい)の「疎」とは密の対義語で「間がすいている。あらい。まばら。」などの意味があります。
疎性CTは、身体全体に広がっています。

疎性CTは柔らかくゼリー様

  • 豊富な基質(多くの水分を抱え込んでいます)
  • 少しの繊維(コラーゲン・エラスチン)&細胞(おもに線維芽細胞・脂肪細胞、ほかに白血球・肥満細胞)

から成ります。

気質の水分が少なく、よりゼリー状であれば粘性が増し、温度が高く水分が多ければ水のようになります。後者の方が、細胞間の液体や栄養分の交換が容易です。

密生CT

繊維(コラーゲン・エラスチン)と細胞が密になっているのが密生CTです。

密生CTは、コラーゲンが豊富で丈夫です。
エラスチンが多くなると弾力性が増します。(靭帯・軟骨など)

靭帯・腱・腱膜(平たい腱)・深筋膜は密生CTで構成されています。

筋膜[Fascia]と感覚受容器

密生CTの筋膜(浅筋膜・深筋膜・腱・靭帯など)や筋周膜には多くの感覚受容体があると言われています。
体性感覚と筋膜の状態は深く関係しています。

<体性感覚>
触覚・温度感覚・痛覚の皮膚感覚と
筋や腱、関節などに起こる深部感覚(固有感覚・自己受容感覚ともいわれる)

このように、からだの状態と動きを知覚するために、筋膜の役割はとても重要です。

 

IAPに関係する深筋膜の層:腹直筋鞘と胸腰筋膜

さて、ユニタードのように全身を覆っている深筋膜には2種類あります。

筋外膜と腱膜筋膜です。

  • 筋外膜は筋の外側に付着したコラーゲンの膜です。
  • 腱膜筋膜は、筋外膜の外側の膜です。
    筋群の位置を保つように位置し、筋間中隔と言う「しきり」となり、2-3個の筋の区画を形成します。
    腱膜筋膜は、距離を超えて筋力を伝搬することを可能にしています。

腹直筋鞘のように、腹斜筋や腹横筋の筋外膜がそのまま腱膜筋膜に移行する場合もあります。

水分を含んだ、これら網目シート状の組織は、力を効率的に伝搬することができます。

主な腱膜筋膜は以下です。

大腿筋膜(大腿の深筋膜)
下腿筋膜(下腿の深筋膜)
上腕筋膜(上腕の深筋膜)
前腕筋膜(前腕の深筋膜)
胸腰筋膜(浅層2層)
腹直筋鞘

特にIAPにアプローチする上で、胸腰筋膜と腹直筋鞘の構造を理解することは、体幹の機能を知る上で必須となります。