IAP:腹腔内圧(IAP)とは?

IAP

(IAPはシリーズで続いていきます。)

腹腔内圧
英語の頭文字をとるとIAP(Intra -Abdominal Pressure)

腹腔の状態「腹腔内圧」は動きに関わる大切な観点ですので、まずはここから始めてみたいと思います。

腹腔

この腹腔(ふくくう)とは、腹壁(ふくへき)に囲まれた腔で消化器系の大部分が入っている場所です。

腹腔は、それだけを取り出したとしたらグニャグャの袋です。

 

 

胴体を腰部で輪切りにして、上から見るとこんな感じで、腹腔は写真の青い部分になります。

ここに加わる圧力が腹腔内圧です。

 

腹腔内圧と身体の安定


横隔膜・骨盤底筋群・腹横筋をはじめとする体幹の組織が力を発揮し、上下左右からぎゅっと腹腔が抱え込まれることで、腹腔内圧は上昇します。

言いかえると、腹壁の筋群が力を発揮している状態、かつ吸気で横隔膜が下がると、腹腔内圧はさらに上昇します

 

ボールを用いたイメージだとこのような感じです。


A:内圧が少なく不安定な形状のボール


B:上にダンベルを乗せて圧力を高めたボール

この時ダンベルで上から押された力に対し、ボールのビニールが均質に抵抗できているので、形が安定しています。

このように、均質な方向性で腹腔内圧をあげることができると胴回りは360°方向に膨らみ腰部が安定します。

 

これは、骨盤と胸郭の間にとても安定した支えがある状態です。

例えば、すごく重いものを持って「ふんっ!」と頑張っている時などは、こういう状態が保てないと身体は崩れてしまいますよね。
いわゆるブレーシングと言われる状態です。

 

 

 

 

逆に、負荷が弱く「ふん!」と頑張らなくても良い時、腹部が潰れることなく姿勢が安定する状態を保てているならば、目的とする動きに対して最小限の腹腔内圧は自動的に保たれているということも覚えておきたいことです。

要は、骨盤と胸郭の間のスペースが、背骨だけでなく腹腔という袋で支えられていることが大切なのです。

強弱どちらも自動的に腹腔内圧を保てるような機構を身体に再教育するという観点は、エクササイズを考える上でとても重要です。

腹腔内圧と呼気

さて、吸気で腹腔内圧が高まる時、胸腔も肺に空気を抱え込むことで同様に圧を保ち上から蓋をしています。

ですので、息を吐く時、腹腔内圧の急激な低下防ぐためには、コントロールされた呼気が必要になります。

このコントロールされた呼気をいかに習得するかは、動きと呼吸をよくするためにとても重要です。

(胸腔と腹腔の体積と圧の絶妙な関係性と、コントロールされた呼気については別記事にて。)

腹腔内圧を高める際の注意点

また、腹腔内圧を高めるためには段階を踏んだトレーニングが必要です。

とくに、血圧の高い方や骨盤底筋に問題を抱えている方などは、十分注意したアプローチが必要となります。

上で例えたボールのビニールが一部分伸びやすくなっていたら、そこだけが出っ張って膨らみますね。
そこに圧が逃げてしまうからです。

人間に置き換えると、腹部や骨盤底のどこかにそのようなことが起こりやすいようです。

陰部痛や鼠径ヘルニアの既往症のある方などには、腹圧をかけない状態から、組織の弾力性を回復するようなアプローチが必要となります。

また、腹腔内圧を高め吸気で息を止めると血圧は上昇しますので、注意が必要です。

 

腹腔内圧とエクササイズ

ここまで述べたように腹腔内圧をどうコントロールするのか、このことだけでも身体の動きを考える上で、多くの問いかけを与えてくれます

例えば、ピラティスでアーティキレーションと呼ばれる脊柱を滑らかに動かす時などは、圧は少なめで、腹腔が背骨の動きに滑らかについていくことが必要でしょうし、ニュートラル・ポジションで負荷が加わる時などは、負荷に合わせ腹腔内圧を高められることが大切です。

このように、腹圧を高低どちらにおいてもコントロールできるようにするというのは、エクササイズを行うときの重要な観点となります。

わたしは動きの中で
「腹腔は身体の真ん中にある大きな水性の袋」
「エクササイズ中、その袋を、どれくらいの圧でどのように安定させておくのが適切か」
と言うように置き換えて考えています。

 

さらに、腹腔内圧に関連してエクササイズを考える際には、横隔膜のドーム型の可動範囲ZOA(Zone of Apposition)という考え方が必要になります。

このZOAについては、別の項目で。